Red Moon -第5幕-第5幕 ほんとうのたからもの 「姉さん・・・」 涼がそうつぶやいた時、日が昇り始め、夜から朝へと変わっていく。 朝の光を浴びて、『誘惑』と『虹』の水晶が輝き始めた・・・ ―そして、宝は現れた・・・ 朝日を浴びた二つの水晶は・・ まず、虹の水晶が輝き始める。そして、その光は誘惑の水晶に伝わり、さらに誘惑の水晶の上空へと光が延びていく。 「『虹』をレンズにして光を集め、『誘惑』をスクリーンの様に使っていると思ってくれればいい。」 秀明が説明する。 そして上空には・・ 何かが映し出される。 「何だ、あれは・・」 「もうすぐ分かるよ。」 涼のつぶやきに、秀明は答えた 映し出された物がはっきりとしようとする時・・ 紅の水晶も輝き始める。紅の水晶は、その上空に、大きくて広い、紅のVの字を映し出す。 「・・そして、星の輝きを蓄えた『紅』が輝くとほぼ完成する・・『永遠』・・では、分からないか。その鏡を貸してくれないか。」 「この、月の鏡のことですか。」 楓が、秀明に聞き返す。 「そうだ。」 「・・どうぞ。」 鏡を渡してもらった秀明は、上空に映し出された虚像に、太陽の光が反射するように鏡を持った。 そして太陽の光が、鏡によって反射され、虚像を照らす。 「これは、鳳凰・・」 涼は、上空の虚像を見てそうつぶやく。 「不死鳥・・というべきだろうね、きっと・・」 鏡を持ちながら、秀明は話す。 「不死鳥?」 「そう、永久に輝き続け、飛び続ける不死鳥。」 『誘惑』によって、不死鳥の体が映し出され、『紅』によって、その大きな翼を映し出している。 「これが、水晶の宝なの・・」 真理は、呆然としながらつぶやいた。 「そう、これが水晶によって導かれる宝だよ。蒼波やエドワードが考えていた、財宝の類ではないんだ。」 「・・そして、誰も本当のことを知らないで、奪い合いを演じていたのね。」 真理は、悲しそうに言う。 「そう、残念ながらね・・」 「・・でも、これって財宝とかよりも素敵な物だな、と思うんだけど。」 久々に、雪絵が声を出してきた。 「私もそう思うわ。」 桜も同調する。 「そうね、どんな財宝でもこの『宝』には勝てないわね。」 真理も、感動を隠さなかった。 「・・すごくきれいだな、この不死鳥・・」 涼は、ずっと上空に映し出されている幻に見入っている。 「さてここで、皆さんに尋ねたいことがあるのですが・・」 秀明が、唐突に話を持ちかけてきた。 「何だ、尋ねたいことって・・」 「それは、この水晶全部をどうするか、ということについてです。」 「どういう意味ですか、それは。」 「こういう事です。この水晶について壊すのか、保管するのか。別の方法を取るか。神尾さん。あなたは、水晶を壊したいのでしたよね。」 「・・もういいわ、壊さなくても。壊したところで死んだ人は生き返ることはないのだから・・」 「そうですか、他のみなさんは?」 「紅は、おじさんに返したい。親友から託されたって言っていたからな。」 「月の鏡は、真琴さんに返したいですね。父からもらった大切な物といっていましたしね。他の水晶は、どうぞご自由に。」 涼と楓は、それぞれ自分の主張を言った。 「そうですか、あなたは?」 「私は、別にどうして欲しいというのはないわ。」 雪絵はそう言った。 「では『紅』と『永遠』は、あなたたちに託しましょう。」 「その二つの水晶は?」 「・・父と兄の墓に埋めるつもりです。」 「・・そっか。」 涼がつぶやく。 ・・・気がつけば、上空にいた不死鳥は消えていた。 ガラン、ガラン・・・ 島の教会だろうか?鐘の音が響き渡る。その鐘の音が、この会合の終わりを告げるような気がした。 「・・・鐘の音か。もう時間ね。」 桜は、そうつぶやいた。 「さて、それではそろそろ私達は行きますか。」 秀明と桜は、歩き出した。 「姉さん、家には帰って来ないの?」 涼が尋ねた。 「ええ、そうよ。私はこれからも秀明さんと一緒に暮らしていくのだから。」 桜は、冷たく答えた。 「もう二度と帰って来ないの、もう二度と逢えないの?」 「そうかもしれないわ・・」 そう冷たく言い残して、桜は行ってしまった。 ・・・涼には、分からないのだが『・・サヨナラ、涼。元気でね。』と小さい声で言いながら、そして泣きながら、桜は歩いていたのだった。 桜に冷たくされたのがショックだったか、少しの間、涼の時間は止まっていたのだが・・ 「さて、この水晶をおじさんに返しに行くか。」 何とか、元気になったようだ。 (姉さんには、あの人がいるし、俺には・・・) そんなことを考えながら、涼は、雪絵を見つめた。 見つめられた雪絵は、不思議そうな顔をする。 「僕も、早くかえって仕事に合流するとしましょう。」 「・・そんなこといって、実は早く真琴さんに逢いたいんでしょ。」 「涼君、こういう時に愛する人のことを考えるのは、君ぐらいですよ。」 「どういう意味だよ、楓さん。」 「ついさっき、雪絵さんの顔を見つめていたのはどこの誰ですか・・」 「・・・・・」 「図星の様ですね。」 「楓さん!」 「それで、私の顔を見ていたの・・・」 真っ赤になっている雪絵。 「あつい、あつい。・・・のろけには付き合っていられないわ。」 そう言って、真理は帰っていった。 「僕も仕事があるので。」 楓も帰っていく。 ここに残ったのは、涼と雪絵の2人だけだった。 「・・・俺たちも帰るか?」 「ねえ、涼。お姉さんのことは・・」 何と言えばいいのか、迷いながら雪絵が話しかけると・・・ 「・・・分かるよ。姉さんには、秀明さんがいるんだからな。」 涼は、穏やかに答える。 「・・・」 「姉さんが幸せなら、それでいいさ。で、俺達は俺達で…だろ、雪絵。」 「うん。」 雪絵は、笑顔で返事した。 -そして2人は、朝焼けの中で、抱き合ってキスをする。 「なぁ、雪絵。姉さん達よりも、楓さん達よりも幸せになろうな。」 涼は、雪絵を抱きしめながら話しかけた。 「うん。」 幸せな笑顔で、雪絵がこたえる。 「雪絵、愛しているよ。」 「私も愛してるわ、涼。」 ・・・2人は、もう一度キスをした。 ・・・そんな2人が、おじの所へ帰ってきたのは、昼過ぎになってからだった・・・ (・・・やはり、幸せでしたか。) 楓は、そう思いながら歩いていた。 (この暑さは、意地悪ですね。やはり季節は・・・) 「約束を思い出してしまうけれど、桜の季節が一番ですね。」 楓は、桜のことを想いながら、つぶやいた。 (・・・真琴とは、絶対に幸せになりますよ。あなたたち以上にね。) 楓はそう誓い、真琴の待つホテルへと急ぐ。 ホテルに帰り、おじに宝石を返した後で、雪絵と泳ぎに出掛けようとした時・・・ 真理が、青年と話しているのを見かけた。 涼と雪絵は、何だろう?と気になり近づいた。青年の顔を見た時、雪絵は驚いた。 「俳優の・・柏木朝斗!」 大声をあげたせいで、2人に気付かれた。 「真理さん、知り合いですか?」 「・・・」 真理は困っている。 「あのう、神尾さんと知り合いなんですか?」 雪絵は、朝斗に聞いてみた。 すると・・・ 「僕は、真理さんのフィアンセなんです。」と答えられた。 「えっ!」 涼と雪絵は、二人とも驚いていた。 「本当なのか、神尾。」 「・・・・・」 真理は、何も言わなかった。ただ困っているようだ。雪絵は、自分達がクラスメイトであると説明し、「それではお邪魔しました。」と言い、涼を引っ張って退散した。 涼は、引っ張られながら、「フィアンセがいたのか、知らなかった」とつぶやいている。 「朝斗、なんであんな嘘を・・・」 涼達が消えたのを見て、真理が言う。 「全くの嘘じゃありませんよ。僕は、あなたにプロポーズをしているんですから・・彼なんでしょ?あなたの心までも盗んだ怪盗チェリーというのは。」 「怪盗チェリーなのは合っているわ。でも見たでしょ。隣に彼女がいたのを。」 「それでも好きだとか・・」 「確かに嫌いではないわ。でも今は好きではないの。」 「では、今僕があなたの心を盗めばいいんですね。」 「よくそんな歯の浮くセリフが続くわね。」 「貴女を落とすためでしたらね。」 「・・まあ無理だと思うけど、そんなセリフだったらね。」 『せいぜい頑張って。』と言って、真理は去ろうとする。 「そうですか、では強行手段ということで・・」 朝斗はそう言って、去ろうとする真理を抱きしめてキスをする。 「あなた、人前だということを分かっているの!」 朝斗から離された真理が叫ぶ。 「ええ、分かってますよ。でも周りの人なんて関係ないんですよ。それぐらいあなたのことが好きなんですよ。」 「・・・・・」 真理は何も言えなかった・・・。 (ほんとうに、勝手なんだから。 あなたは・・・。) -舞踏会の楽曲は、最終章を迎える・・・。 ジャンル別一覧
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