037401 ランダム
 HOME | DIARY | PROFILE 【フォローする】 【ログイン】

Midnight waltz Cafe 

Red Moon -第5幕-


         第5幕   ほんとうのたからもの
                             
 「姉さん・・・」                    
 涼がそうつぶやいた時、日が昇り始め、夜から朝へと変わっていく。                         
 朝の光を浴びて、『誘惑』と『虹』の水晶が輝き始めた・・・                     
                              
       
        ―そして、宝は現れた・・・     


 朝日を浴びた二つの水晶は・・              
 まず、虹の水晶が輝き始める。そして、その光は誘惑の水晶に伝わり、さらに誘惑の水晶の上空へと光が延びていく。   
                              
 「『虹』をレンズにして光を集め、『誘惑』をスクリーンの様に使っていると思ってくれればいい。」          
 秀明が説明する。                    
                              
 そして上空には・・                   
                  何かが映し出される。                  
                              
 「何だ、あれは・・」                  
 「もうすぐ分かるよ。」                 
 涼のつぶやきに、秀明は答えた              
                              
 映し出された物がはっきりとしようとする時・・      
 紅の水晶も輝き始める。紅の水晶は、その上空に、大きくて広い、紅のVの字を映し出す。               
                              
 「・・そして、星の輝きを蓄えた『紅』が輝くとほぼ完成する・・『永遠』・・では、分からないか。その鏡を貸してくれないか。」                        
 「この、月の鏡のことですか。」             
 楓が、秀明に聞き返す。                 
 「そうだ。」                      
 「・・どうぞ。」                    
 鏡を渡してもらった秀明は、上空に映し出された虚像に、太陽の光が反射するように鏡を持った。            
                              
 そして太陽の光が、鏡によって反射され、虚像を照らす。  
 「これは、鳳凰・・」                  
 涼は、上空の虚像を見てそうつぶやく。          
 「不死鳥・・というべきだろうね、きっと・・」      
 鏡を持ちながら、秀明は話す。              
 「不死鳥?」                      
 「そう、永久に輝き続け、飛び続ける不死鳥。」      
                              
 『誘惑』によって、不死鳥の体が映し出され、『紅』によって、その大きな翼を映し出している。        
                              
 「これが、水晶の宝なの・・」              
 真理は、呆然としながらつぶやいた。           
 「そう、これが水晶によって導かれる宝だよ。蒼波やエドワードが考えていた、財宝の類ではないんだ。」        
 「・・そして、誰も本当のことを知らないで、奪い合いを演じていたのね。」                     
 真理は、悲しそうに言う。                
 「そう、残念ながらね・・」               
 「・・でも、これって財宝とかよりも素敵な物だな、と思うんだけど。」 久々に、雪絵が声を出してきた。             
 「私もそう思うわ。」  桜も同調する。                     
 「そうね、どんな財宝でもこの『宝』には勝てないわね。」 
 真理も、感動を隠さなかった。              
 「・・すごくきれいだな、この不死鳥・・」        
 涼は、ずっと上空に映し出されている幻に見入っている。  
                              
 「さてここで、皆さんに尋ねたいことがあるのですが・・」 
 秀明が、唐突に話を持ちかけてきた。           
 「何だ、尋ねたいことって・・」             
 「それは、この水晶全部をどうするか、ということについてです。」                         
 「どういう意味ですか、それは。」            
 「こういう事です。この水晶について壊すのか、保管するのか。別の方法を取るか。神尾さん。あなたは、水晶を壊したいのでしたよね。」                     
 「・・もういいわ、壊さなくても。壊したところで死んだ人は生き返ることはないのだから・・」            
 「そうですか、他のみなさんは?」            
 「紅は、おじさんに返したい。親友から託されたって言っていたからな。」                       
 「月の鏡は、真琴さんに返したいですね。父からもらった大切な物といっていましたしね。他の水晶は、どうぞご自由に。」  
 涼と楓は、それぞれ自分の主張を言った。         
 「そうですか、あなたは?」               
 「私は、別にどうして欲しいというのはないわ。」     
 雪絵はそう言った。                   
                              
 「では『紅』と『永遠』は、あなたたちに託しましょう。」 
 「その二つの水晶は?」                 
 「・・父と兄の墓に埋めるつもりです。」         
 「・・そっか。」                    
 涼がつぶやく。    
                 
                              
  ・・・気がつけば、上空にいた不死鳥は消えていた。   


                              
  
 ガラン、ガラン・・・
 
 島の教会だろうか?鐘の音が響き渡る。その鐘の音が、この会合の終わりを告げるような気がした。

 「・・・鐘の音か。もう時間ね。」
 桜は、そうつぶやいた。

 「さて、それではそろそろ私達は行きますか。」      
 秀明と桜は、歩き出した。   
             
 「姉さん、家には帰って来ないの?」          
 涼が尋ねた。                      
 「ええ、そうよ。私はこれからも秀明さんと一緒に暮らしていくのだから。」                     
 桜は、冷たく答えた。                  
 「もう二度と帰って来ないの、もう二度と逢えないの?」 
 「そうかもしれないわ・・」  
 そう冷たく言い残して、桜は行ってしまった。       
 ・・・涼には、分からないのだが『・・サヨナラ、涼。元気でね。』と小さい声で言いながら、そして泣きながら、桜は歩いていたのだった。               
                              
 桜に冷たくされたのがショックだったか、少しの間、涼の時間は止まっていたのだが・・               
 「さて、この水晶をおじさんに返しに行くか。」      
 何とか、元気になったようだ。                 
 (姉さんには、あの人がいるし、俺には・・・)      
 そんなことを考えながら、涼は、雪絵を見つめた。     
 見つめられた雪絵は、不思議そうな顔をする。       
 「僕も、早くかえって仕事に合流するとしましょう。」   
 「・・そんなこといって、実は早く真琴さんに逢いたいんでしょ。」                         
 「涼君、こういう時に愛する人のことを考えるのは、君ぐらいですよ。」                     
 「どういう意味だよ、楓さん。」             
 「ついさっき、雪絵さんの顔を見つめていたのはどこの誰ですか・・」                        
 「・・・・・」                     
 「図星の様ですね。」                  
 「楓さん!」                      
 「それで、私の顔を見ていたの・・・」 
  真っ赤になっている雪絵。

 「あつい、あつい。・・・のろけには付き合っていられないわ。」        
  そう言って、真理は帰っていった。  
          
 「僕も仕事があるので。」 楓も帰っていく。
                    
 ここに残ったのは、涼と雪絵の2人だけだった。         
 「・・・俺たちも帰るか?」                
 「ねえ、涼。お姉さんのことは・・」 
 何と言えばいいのか、迷いながら雪絵が話しかけると・・・
 「・・・分かるよ。姉さんには、秀明さんがいるんだからな。」
 涼は、穏やかに答える。
 「・・・」                       
 「姉さんが幸せなら、それでいいさ。で、俺達は俺達で…だろ、雪絵。」                    
 「うん。」  雪絵は、笑顔で返事した。                
                              
 -そして2人は、朝焼けの中で、抱き合ってキスをする。
                              
 「なぁ、雪絵。姉さん達よりも、楓さん達よりも幸せになろうな。」
 涼は、雪絵を抱きしめながら話しかけた。 
 「うん。」
 幸せな笑顔で、雪絵がこたえる。
                              
  「雪絵、愛しているよ。」                  
  「私も愛してるわ、涼。」               
              ・・・2人は、もう一度キスをした。  
 
                                  ・・・そんな2人が、おじの所へ帰ってきたのは、昼過ぎになってからだった・・・                        
    

                          
 (・・・やはり、幸せでしたか。)
 楓は、そう思いながら歩いていた。
 (この暑さは、意地悪ですね。やはり季節は・・・)
 「約束を思い出してしまうけれど、桜の季節が一番ですね。」
 楓は、桜のことを想いながら、つぶやいた。
 (・・・真琴とは、絶対に幸せになりますよ。あなたたち以上にね。)
 楓はそう誓い、真琴の待つホテルへと急ぐ。


 ホテルに帰り、おじに宝石を返した後で、雪絵と泳ぎに出掛けようとした時・・・                    
 真理が、青年と話しているのを見かけた。 涼と雪絵は、何だろう?と気になり近づいた。青年の顔を見た時、雪絵は驚いた。                   
 「俳優の・・柏木朝斗!」                
 大声をあげたせいで、2人に気付かれた。         
 「真理さん、知り合いですか?」             
 「・・・」 真理は困っている。                   
 「あのう、神尾さんと知り合いなんですか?」       
 雪絵は、朝斗に聞いてみた。               
 すると・・・ 「僕は、真理さんのフィアンセなんです。」と答えられた。        
 「えっ!」                       
 涼と雪絵は、二人とも驚いていた。            
 「本当なのか、神尾。」                 
 「・・・・・」                     
 真理は、何も言わなかった。ただ困っているようだ。雪絵は、自分達がクラスメイトであると説明し、「それではお邪魔しました。」と言い、涼を引っ張って退散した。    
 涼は、引っ張られながら、「フィアンセがいたのか、知らなかった」とつぶやいている。
               
 「朝斗、なんであんな嘘を・・・」            
 涼達が消えたのを見て、真理が言う。           
 「全くの嘘じゃありませんよ。僕は、あなたにプロポーズをしているんですから・・彼なんでしょ?あなたの心までも盗んだ怪盗チェリーというのは。」               
 「怪盗チェリーなのは合っているわ。でも見たでしょ。隣に彼女がいたのを。」                    
 「それでも好きだとか・・」                
 「確かに嫌いではないわ。でも今は好きではないの。」   
 「では、今僕があなたの心を盗めばいいんですね。」    
 「よくそんな歯の浮くセリフが続くわね。」        
 「貴女を落とすためでしたらね。」           
 「・・まあ無理だと思うけど、そんなセリフだったらね。」 
 
 『せいぜい頑張って。』と言って、真理は去ろうとする。  
 
 「そうですか、では強行手段ということで・・」      
 朝斗はそう言って、去ろうとする真理を抱きしめてキスをする。                           
 「あなた、人前だということを分かっているの!」     
 朝斗から離された真理が叫ぶ。              
 「ええ、分かってますよ。でも周りの人なんて関係ないんですよ。それぐらいあなたのことが好きなんですよ。」     
 
 「・・・・・」                     
  真理は何も言えなかった・・・。
 (ほんとうに、勝手なんだから。 あなたは・・・。)
 


       -舞踏会の楽曲は、最終章を迎える・・・。
 


© Rakuten Group, Inc.